▼珍しい歓喜の咆哮
試合終了直後、気がつけば吠えていた。
自身初となる国内メジャータイトルまであと1勝。冷静沈着なイメージが強い岩尾憲の咆哮は、珍しい光景だった。あの雄叫びの真意とはーー。
「自分個人のマインドとしては、浦和でプレーしてきたこの1年半の責任を含めて、この日のために浦和に来たんだなと感じました。この状況を乗り越えられなければいつもの浦和です。(準決勝で敗退してしまえば)何も変わっていかないという感覚でいました。歴史を動かすと言うと、過去に引っ張られていますが、未来を作らなければいけません。そこに自分が浦和に来た意味がありますし、未来を作る上で自分が何をしなければならないのか。そういったことを大事にしながらも、プレッシャーも感じていました。レッズでプレーする存在意義、そして自分にその価値はあるのか。それが問われる試合だったからです」
試合前のロッカールームでのこと。出場停止の酒井宏樹に代わってキャプテンマークを巻いた岩尾がチームメートに「殻を破ろう」とハッパをかけたという。2年連続でルヴァンカップ準決勝敗退を繰り返しているチームが殻を破る意味も含まれていたが、それ以上に「自分へのメッセージだった」。
こうして横浜F・マリノス戦のピッチに立った岩尾は、良い意味で“らしくない”プレーも存分に披露。チャンスと判断すればボックス内の奥深くまで進入し、ゴールラインを割りそうなボールに対しても必死に食らいついていった。「味方を追い越す動き、ボックス内に入っていく姿勢は良かったと思います。配球するにしても、プレーに気持ちが乗らないと何も起きませんから」(岩尾)。結果、チームは荻原拓也のクロスから2つのPKを奪取し、アレクサンダー・ショルツが貴重な2本を決め切って、ファイナルの舞台にたどり着いた。
「奇跡のようなプロキャリアの始まり」だった男が、35歳のシーズンにして初めて、日本サッカーの聖地である国立競技場に立つこととなった。ファイナルの先に待つ結末は、果たして。