#76 まさかのフリックにセットプレーのストーン役。献身性を発揮した岩尾憲の本音

#76 まさかのフリックにセットプレーのストーン役。献身性を発揮した岩尾憲の本音

「サッカーの現場から #39」ーACL第5節・浦和×武漢ー

2023/11/30

▼「試合はプランの品評会ではない」
 勝利にまさる良薬なしーー。それを心得ているからこそ、直近の試合から出場停止明けの岩尾憲は、貪欲に勝利だけを希求していた。
 23分、アレクサンダー・ショルツからのクサビを岩尾がフリックし、トップのブライアン・リンセンにつなげた。結局、リンセンからのリターンパスが岩尾に合わなかったものの、フリックして味方につなげる様は、まるで2列目の選手のそれだった。
「(安居)海渡は意思決定ができる選手なので、お互いにリスクマネジメントを意識しながら、必要であれば攻撃の枚数を増やすために前に入っていくことは5バックの相手に必要だとなんとなく感じていたので、トライしました。結果うまくはいかなかったですが、あのような工夫は積極的にトライしていかないと」(岩尾)
 腕章を巻いた男の気迫が伝播したのか。相手のラフな局面の攻防にも浦和レッズイレブンは臆せず挑み続け、37分にショルツのPKで先制点を奪うと、一度追い付かれはしたが、終了間際の90分、今季限りでの現役引退を表明しているホセ・カンテが左足シュートを武漢三鎮ゴールにねじ込んだ。
 一度勝ち越せばあとは2-1で試合をクロージングするだけ。4分と表示されたアディショナルタイムにはCKのピンチを迎えたが、二度岩尾がストーン役となって相手のキックを頭ではね返した。セットプレーをはね返す岩尾の姿はあまり想像がつかないが、それも勝ちたい意欲の表れだった。
「「ボールが来たら嫌だな」というよりは、「来いよ」と思っている中で実際にボールが来ました(苦笑)。準備の大事さを痛感しましたし、今日はチームにいろいろなアラートさがありました。また90分の中でいろいろなアクシデントはありましたが、チームとしてバランス良くブレずにやり続けられたことが最後、あの“理不尽”なゴールにつながったのかなと思います」(岩尾)
 武漢戦の勝利により、浦和レッズはAFCチャンピオンズリーグ、グループステージ突破に望みをつないだ。そして武漢戦の勝利は今季の公式戦ホームラストマッチを飾ったことに加え、公式戦4連敗だった“悪夢の11月”を払拭する結果となった。出場停止だったアビスパ福岡戦を外から見つめ、復帰戦で勝利に貢献した岩尾が言葉を紡ぐ。
「そのうち勝てるだろうでは勝てないですし、確かに戦術もありますが、自分たちからボールをゴールにねじ込むサッカーの本質というか、小手先ではなく、がっぷり四つで相手とつかみ合った中でプレーすることが必要だと、福岡戦を外で見ながら感じていました。ゲームプランは確かにありますし、それが良い方向に出た試合ではありましたが、試合はプランの品評会ではありません。僕らは勝負をしているので、何でも良いから勝つみたいな気持ちの中で勝利をもぎ取れたことは、とても良かったです」
 安堵感が強かったのだろう。取材エリアの岩尾は、言葉を重ねるたびに表情が和らいでいく。そして、最後に漏らした“本音”が印象深い。
「局面もしっかりと戦えたし、結果が伴ったことも含めて、今日はよりぐっすりと、何も考えずに眠れると思います」
 7試合ぶりである公式戦勝利後の夜は、岩尾にとって、安心して羽を休める時間になった。

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