▼最高の“現役ラストダンス”を。盟友へのエール
今季限りでの現役引退を表明している太田宏介にとって、今季のJ2リーグ最終節・ベガルタ仙台戦が“現役ラストダンス”。その舞台は本人も「相性が良い」と自覚しているユアテックスタジアム仙台だ。
遡ること10年前の2013年。天皇杯準々決勝の仙台戦で当時FC東京に所属していた太田は、終了間際に直接FKから起死回生の同点ゴールを決め、チームを敗退危機から救った。「あの時のFKはめちゃめちゃイメージ通りでとても印象に残っている」と太田。そして延長戦突入後、FC東京は石川直宏のアシストから林容平が決勝点を奪い、準決勝に駒を進めた。自身が活躍し、試合展開も劇的だったため、太田の脳裏にはインパクトの強いゲームとして深く記憶に刻まれている。
さらに6年後の2019年。ルヴァンカップグループステージ第2節・仙台戦ではCKを直接ゴールにねじ込んでいる。まさに太田にとってのユアスタは「観客も入るし、アドレナリンがめちゃめちゃ出るスタジアム」だ。
数奇なる運命はこれだけにとどまらない。現在の仙台の守護神は林彰洋。「小学校からの同級生で東京都の選抜でも一緒にプレーしてきた林彰宏からゴールを決められたら最高」と太田は現役最後のフィナーレをそう夢見ている。
浦和レッズでプレーしていた当時の柏木陽介
また時を同じくして、今季限りでスパイクを脱ぐことを表明した選手が、2007年のU-20W杯カナダ大会にともに出場した柏木陽介(FC岐阜)。“調子乗り世代”の一人として、また同じレフティーとして通じ合ってきた2人が、今季限りでピッチを去ることに太田はどんな心境なのだろうか。
「そういう年齢になってきているということだし、引き際の重要性はお互いがそれぞれの考え方を持っていました。自己中心的な言い方をさせてもらうと、一つの時代が終わったなと思います」
“87年組”の調子乗り世代はグループでのメッセージのやり取りをずっと続けてきたが、当初は「同世代の活躍がうれしい反面、悔しくもあったし、嫉妬もした」という。それが年々歳を重ねるごとにメッセージの内容も次第に変化し、「あんなにギスギスバチバチしていた関係性だったのに、助け合ったり、励まし合うことも多くなったから、みんなだいぶ大人になった」と太田は笑った。
また「プライベートでは一番仲良くさせてもらったJリーガー」である柏木は、「一度同じクラブチームでプレーしたかった選手」として密かにずっと夢を抱いてきた。その証拠に選手名鑑のアンケートで「一緒のチームでプレーしたい選手は?」と問われれば、迷わず「柏木陽介」と記してきたという。
「(髙橋)大悟とかもそうだけど、間でボールを受けた時に左利きの選手は左を見てくれるから、左サイドでプレーしている僕からすればとてもやりやすい。また対戦相手として陽介のプレーを体感して、陽介は自分でどうこうするというよりも、簡単にさばいて、味方をうまく使える選手だから、一緒にやってみたかった気持ちが強いです」(太田)
同一のクラブチームで柏木との“共演”は叶わず。太田のほうが柏木よりも一足早くレギュラーシーズンが終わるため、スパイクを脱ぐタイミングは早い。お互いの現役ラストダンスへーー。太田は柏木へのエールも込めてこう語った。
「お互いに調子乗り世代だけに、インパクトを残す形で現役を終えられたら最高だと思う」