▼「良い意味で監督の期待を裏切れるか」
内に秘めたる闘志が、鋭い顔つきに表れていた。
1-2とビハインドの状況で後半のスタートからピッチに立つ。“インサイドハーフの8番”で途中起用された岩尾憲は、己が何をすべきか。それを理解していた。
後半開始早々、1-3とさらに突き放されたことは誤算だったとしても、追いかける展開に変わりはない。48分に放った左足シュートは、ほんの挨拶代わり。55分には関根貴大をスペースに走らせる鋭いパスを展開し、松尾祐介の絶好機を演出。直後のCKは自身がキッカーを務め、最後は松尾がゴール前の混戦から押し込んだ。
59分にも鈴木雄斗の進撃をスライディングで阻止すると、ゴール前にクロスを供給。64分には前田直輝へ鋭いグラウンダーのパスを通し、「迷いはなかった」前田の“ゴラッソ”を導き出した。
81分の4-4に追いつくゴールも岩尾の縦パスが出発点。また90分に松尾のシュートが相手GK富居大樹を強襲した場面も岩尾の縦パスが導き出している。
後半のチャンスシーンには、岩尾の縦パスあり。受け手の前傾姿勢を援護射撃するかのようなパスの連続。それはまるで、全てのパスに強烈なメッセージが込められているように映った。岩尾が言う。
「みなさんにどう映っているか分からないですけど、僕自身はベンチで満足していないですし、これまでのサッカー人生の文脈を含めて、まだまだ自分自身はやれると思っています。今は残念ながら競争で負けているからベンチにいるのも理解していますし、その上で自分が起用された時に何をできるか。良い意味で監督の期待を裏切れるかということが、自分自身に問われていると思っています」
1本1本のパスには、ベンチスタートの境遇から這い上がろうとする岩尾憲の強い意思が宿っていた。